『王と鳥―スタジオジブリの原点』

王と鳥―スタジオジブリの原点

王と鳥―スタジオジブリの原点

県立図書館にて読了。


スタジオジブリの作品『王と鳥』が現在公開されているということ。実は全く知らなかった。今日、この本を目にして、手にとって初めて知ったことだ。
ジブリ自ら、公式サイトで「ジブリの原点」と謳っているように、宮崎駿高畑勲らが大きな影響を受けた作品が、フランスのアニメーション『王と鳥』であるという。
フランスで、詩人プレヴェールの脚本により、ポール・グリモーの監督で製作された長編アニメーション『やぶにらみの暴君』。1953年にフランスで公開されて、2年後の55年に日本でも公開されている。当時、日本で上映されていた長編アニメーションはディズニー一辺倒で、本作は「非ディズニー的」で大人も楽しめる作品であると評価されたようだ(余談だけれど、この時期から日本では、今日に繋がるような、こういう性質の作品が、すでにある程度評価されていたというのは興味深い)。
グリモーは1979年に『やぶにらみの暴君』を作り直し、それが『王と鳥』という作品であるという。

王と鳥 [DVD]

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恥ずかしながら、この『やぶにらみの暴君』『王と鳥』の両作品についても、その名前、内容について、今回初めて知った。もちろん未見。
ジブリとグリモーの『王と鳥』については、ジブリの公式サイトが詳しい。


さて、ようやく本書について。初めに『王と鳥』のストーリーが語られ、その後、幾人かが『やぶにらみの暴君』と『王と鳥』について述べている構成になっている。
なお、本書収録の大塚康生からの聞き書きは、「大塚康生氏 特別インタビュー『論理と寓意が練り込まれた誇り高きアニメーション』」に、内容として重複する、掲載原稿のもとになったものが掲載されている。これは面白い。


映画を未見で、本書を読んでいるだけでも分かるのだけれど、『やぶにらみの暴君』で語られていること、描かれていること、ストーリーの筋は、一見したところ実に明快だ。
しかし、どうにもしっくりこない部分がある。本書では、見ているものはありありと明快なのに、白昼夢のように感じられる、という言い回しがされていたと思う(例えば、よくよくこの作品を見ていけば、完全なる善人・悪人というものが登場していないことが分かるけれど、そういうことだろうか)。単に感情だけで受容するのではなく、感覚と理性で受け止めなければならない作品であるということだったと思う。
これは、アニメーションや映画に限らず、「作品」と呼ばれるもの全般に関して、実はかなり重要なことなんじゃないかなと思う。
私が深く「信頼できる」と感じた作品、その中に入り込んで何かを感じることのできる作品、つまり、単に表面をなでて表層に近い部分だけに触れて楽しんで消費するだけではなかった作品のいくつかには、このような、一見分かりやすく、あるいは優しげな表情を見せているんだけれど、どこか「白昼夢」のような不安を感じずにはいられないものがあった。その要素とは無縁ではないものがあった。


最近触れたものとして、今一番に頭に浮かんでいるのは、18禁ゲームの『わんことくらそう』(ivory)なんだけど。
わんことくらそう』に触れて、何かを感じ、この作品に対する印象を述べようとすると、その何かがするりと腕の中から逃げ出してしまうような感覚は、この「白昼夢」の感覚だったのかもしれないと思う(『わんことくらそう』については前書いた感想がダメダメだったので、いつか何か書ければいいなあと思うんだけど…)。感情ではなくて、感覚として何かを把握しなければ、それが言葉に出来ない種の作品なのかなあとか。


それは、さておき。


本書中、高畑勲「考えを触発してくれる映画『王と鳥』」に、大変示唆に富む部分があったので、少々触れておきたい。

理性が必要なんて言っても、最近の映画みたいに『読み解』かなければならないような複雑怪奇な筋立てや謎に充ちた世界の不可解さはありません。むしろ単純明快です。けれども、世の中は複雑怪奇なように見えて、じつは大きく捉えれば、いつもひどく単純な構造から成り立っていたのではないか。そのことをこの映画は思い出させてくれるんです。単純だからこそ、作品世界のなかにべったりとらわれるのではなく、それに触発されて自由にさまざまなことを考えることができるのですから。

これは実感としてわかる。ある種の良作は、つねにこのような性格を持っていると思う。
また、あるいはこの部分。

この一見単純明快そうな映像に触発されて、歴史や現実への「重ね合わせ」をしないではいられなくなる。その僕なりの重ね合わせなんです。だからそれは観客によってかなり違うものになるはずです。自分の体験やなんかで。


王と鳥』。グリモーによるものであれ、ジブリによるものであれ、とりあえずまずは見てみたいものだと、そう思った。